YouTuberが5,000万円をクラウドファンディングしたインディーゲーム 『誓いノ淵』が事実上の停滞プロジェクトに 支援者からは「返金しろ」の怒りの声

登録者数61万人のYouTuber「なるにぃ」がクラウドファンディングを実施し、5,000万円以上の支援金を集めたインディーゲーム『誓いノ淵』に重大なトラブルが発生している。ゲームディレクター兼プログラマーを務めていた「ゴブロー」が離任し、プロジェクトの開発データが不明な状態にあることが判明、開発停滞が大きな波紋を呼んでいる。
「なるにぃ」は元ライトノベル作家であり、2019年からゲーム解説活動を開始したクリエイターである。『ダークソウル』シリーズなどを対象に、世界観や物語考察を中心とした解説動画で人気を集め、プレイ映像と分析的な語り口を組み合わせた独自スタイルで知られている。
2023年には「ゲーム史に名を残す作品を作る」という目標を掲げ、ゲーム開発への本格参入を宣言。クラウドファンディング・プラットフォーム「CAMPFIRE」にて、同人ゲーム企画『誓いノ淵』の資金調達を開始した経緯がある。
『誓いノ淵』は2023年2月10日にクラウドファンディングを開始し、わずか4日で当初目標であった3,000万円を突破した。最終的には3,851人の支援者が参加し、総支援金額は約5,085万円に到達。高い注目を集めた企画となった。
『誓いノ淵』は、ダークファンタジー調の2Dアクション・ハクスラ作品として構想されている。作品の核心コンセプトは「土地」であり、プレイヤーは農地を建設・運営しつつ、アイテムを収集し、敵の襲撃に備えて防衛を行う。アイテムとHPが連動する独自のシステムのもと、伝説の理想郷を目指す冒険が展開されるとしていた。
当時の募集ページでは、音楽・サウンド陣の豪華な参加メンバーが強調されていた。『デモンズソウル』および『ダークソウル』のサウンドデザイナーであるTECHNOuchi(竹ノ内裕治)、『ダークソウル』および『テイルズ』シリーズの作曲家・桜庭統の参加がアピールされていた。
シナリオは上級騎士なるにぃ本人が担当するとされていた。本人によれば、幼少期から小説家を志しており、YouTuberとしての活動も創作経験を蓄積するための過程であったという。ゲームという媒体を通して自身の物語をプレイヤーに届けることは、長年の夢であったと語っていた。
しかし、『誓いノ淵』の開発は2024年頃から停滞の兆しを見せ始めた。上級騎士なるにぃは同年5月に、当初6月完成予定としていた計画が間に合わない状況であることを明らかにし、その後は進捗報告の頻度も徐々に減少していった。2025年に公開された動画は年間でわずか3本にとどまり、活動の重心はほぼ開発作業に割かれているとしていた。
そして2025年12月31日、なるにぃは久方ぶりに動画を公開し、看板であった顔隠しのヘルメットを初めて外して素顔を見せ、プロジェクトが直面している危機的状況について説明を行ったのである。
なるにぃは動画内で、原音を早送りしたものか、あるいはAIによる読み上げ音声と思われる形式で現状を説明している。それによれば、ディレクター兼プログラマーを務めていた中核メンバー「ゴブロー」が既にチームを離脱しており、ゲームシステムの設計および実装のほぼすべてを同人物が担っていたという。彼の離脱後の状況について、なるにぃは「太平洋のど真ん中で、船長が消え、料理長だけが残された状態」であると形容している。
『誓いノ淵』の主要開発担当者が離脱し、手元に残されたのは約7~10GBほどのプロジェクトデータのみであるという。クラウドファンディング主催者であるなるにぃ自身は、本作の開発に使用されていた Unity プロジェクトファイルを開くことができない状況にあると説明している。ゴブローはかつて「ゲームシステムの完成度は約6割」と述べていたものの、その実態については確認手段がなく、検証不可能な状態となっている。

人事面での経緯について、なるにぃは「ゴブローを解雇したのは自分である」と説明している。過去において、細部仕様に関するやり取りの中でたびたび衝突が発生し、その結果として自身は開発現場への関与を控えるようになっていったという。
しかし、長期間にわたり実行可能なビルドや具体的な成果物を確認できない状況が続いたことで、なるにぃはゴブローに対する信頼を失ったと述べる。出資者に対して説明責任を果たせないと判断し、開発担当者を交代させる決断に至ったとしている。
一方で、プロジェクトが「無人開発」の状態に陥った責任はすべて自分にあるとも強調し、ゴブローに対する個人攻撃や誹謗中傷を控えるよう外部に呼びかけている。企画再始動に向け、まずはプロジェクトデータを確認し、引き継ぎを担える新たなディレクターを見つけることが最優先課題であるとしている。
しかし一方で、現状のままでは新たな協力パートナーを見つけるのは容易ではないとも率直に認めている。そのため、なるにぃは本作の「完全版シナリオおよび世界観設定」を公開し、それによってクリエイターの心を動かしたい意図があると説明した。募集期限は2026年2月1日までとされており、その期間中は引き続きゲーム開発者およびアドバイザーの参加を広く呼びかけている。

3時間に及ぶ動画の中で、なるにぃは『誓いノ淵』の世界観設定やゲームシステムの構想について詳細に説明している。しかし問題となるのは資金面である。約2年前のクラウドファンディングで調達した資金は、現在では半分以下(約1,000万円)しか残っていないという。なるにぃは、実際の開発進捗を把握できていない状況において、この資金でゲームを完成させられるかどうかは不明であると率直に認めている。
一方で、動画内では物語内容の解説に多くの時間が割かれているものの、クラウドファンディング企画の主催者でありながら、自身を「シナリオ担当」という立場にとどめ、謝罪を行わず責任を相対化するような姿勢を示した点が批判を招いた。Chrome拡張機能で確認された数値によれば、高評価は約1,400件に対し、低評価は1.2万件を超えているという。
度重なる延期について、なるにぃは動画の最後でようやく「支援者への返金を検討している」と言及するとともに、「資本家クラスの支援者」を探していると述べた。さらに、それが実現しない場合は「いかなる手段を使ってでも」資金を調達するつもりであるとも発言し、プロジェクトを継続させる強い意志を示している。
インフルエンサーや業界KOLが主導するゲーム開発企画は近年珍しくないが、『誓いノ淵』はチーム内部の摩擦による開発停滞、そして資金の所在を巡る不透明さによって計画が行き詰まる結果となった。かつて期待を寄せ、支援を寄せた参加者たちにとって、本作は皮肉にも「誓いノ淵」という名の通り、深い奈落へと落ち込んだプロジェクトとなっている。